入れ歯で味覚を味わうために

 入れ歯をしている人から「味覚がおかしい」「味がしない」「おいしく食べられなくなった」「食事がまずい」という声をよく聞きます。これはどうしてなのでしょうか。
 人は味蕾(みらい)という器官で味覚を感知します。味蕾は舌の側面や表面、上顎の奥などに分布しています。特に上の総入れ歯の場合、上顎を覆ってしまうので味蕾の機能が弱まってしまうと考えられます。しかし味蕾の9割は舌に分布しており、入れ歯に慣れるにしたがって、味覚を味わうことができるようになります。ただし、レジン床の入れ歯は金属床と比べて厚く、味覚を感知しにくいのも事実です。さらに金属床は熱伝導にも優れており、レジン床と比べて本来の味覚を味わうことができます。この点で、私が義歯床として使うウィロニウムプラス(ドイツBEGO社製のコバルトクロム合金)は従来の金属床と比べても格段に薄くできるので、味覚にも大きな支障がありません。
 また噛み合わせが悪い入れ歯も、味覚異常になりやすいようです。味覚異常を訴える患者さんの噛み合わせを調整することで、多くの方が「おいしい食事ができるようになった」と喜ばれています。
 味覚とは味だけでなく、食べ物の舌触りや温度、あるいは盛り付けや香りなどが重なって感じる感覚です。こうした点からも入れ歯でおいしく食べるための工夫を心がけたいものです。また、入れ歯をして液体状の食べ物を食べる(飲む)とき、入れ歯が落ちてしまうことがあります。「液体状の食べ物は、入れ歯にそれほど大きな負担がかからないはずなのになぜ」と思われた方がいらっしゃるかもしれません。これは容器やスプーンに唇をつけて口をすぼめたとき、口輪筋(こうりんきん:口の周りの筋肉)が働き、入れ歯に付着している部分の粘膜が上がり、外れてしまうからです。これは多くの場合入れ歯自体に問題があり入れ歯の調整が必要になります。

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